家族信託の始め方と手続きの流れ:準備から契約まで徹底解説
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高齢の親の認知症対策や円滑な資産承継の手段として、「家族信託(民事信託)」への関心が高まっています。実際、親名義の不動産に信託登記をした件数は年々増加しており、令和5年(2023年)には全国で2万0321件(前年比116%)に達したとのデータもございます。直近5年で約2倍に増えた計算で、小田原市でも家族信託に関するご相談が着実に増加しています。それでも、「具体的に何を準備し、どう手続きを進めれば良いのかわからない」という声は少なくありません。この記事では、高齢の親を持つ50代の方に向けて、家族信託を始めるための準備から契約締結までの流れを専門家目線でやさしく解説します。必要な書類や費用の目安にも触れますので、不安や疑問を解消しながらスムーズに家族信託を進めるための参考にしてください。
家族信託を始める前に準備すべきこと
家族信託を円滑に始めるには、契約手続きを行う前の入念な準備が欠かせません。ここでは、信託開始前に準備すべきポイントを解説します。
資産の洗い出しと信託目的・計画の明確化
まずは親御さんが保有する資産を整理し、どの財産を信託するか洗い出しましょう。預貯金、不動産、証券類など、信託に組み入れる財産の一覧(財産目録)を作成します。加えて、家族信託を利用する目的と大まかなプランを家族で話し合い、明確化しておくことが重要です。例えば「認知症による資産凍結を防ぐため」「将来の遺産分割を円満にするため」「障がいのある子の生活を親亡き後も支援するため」など、信託を活用する目的を共有しておきます。最初に目的をはっきり決めて家族で認識を合わせておけば、後々の手続きで家族間でもめることを防げるでしょう。加えて、信託期間(いつまで信託を続けるか)や受益者(信託で利益を受ける人)、第二受益者(親が亡くなった後に利益を受ける人)など、大まかな信託の設計プランもこの段階で考えておくとスムーズです。
なお、預金や不動産など大半の資産は家族信託で扱うことができますが、公的年金の受給権など一部信託できない財産もあります(公的年金は法律で譲渡が禁止されています)。専門家に相談しつつ、どの財産を信託財産とするか計画を練ることが大切です。
家族間での話し合いと受託者(託す相手)の選定
家族信託は家族の協力なしには成立しません。親(委託者)と財産を託される子ども(受託者)だけで決めてしまわず、家族全員で十分に話し合う時間を取りましょう。他の兄弟姉妹にも意向を聞き、不明点を共有しておくことで、後から「聞いていない」「自分は仲間外れにされた」といった不満やトラブルを防げます。特に親の財産承継に関わることですから、信託の目的や概要について家族内で透明性を持って合意形成することが円満な信託運用のポイントです。
次に、受託者となる人の選定です。受託者には信託財産の管理処分の大きな権限と責任が委ねられるため、信頼できる人物であることが第一条件です。一般的には子世代の中で親と最も信頼関係が厚く、財産管理に適任な人が選ばれます。受託者は親の資産管理を長期にわたり担う役割ですので、金銭管理能力や健康状態、今後のライフプランも考慮して選びましょう。また、受託者が途中で辞任したり亡くなった場合に備えて後継の受託者を決めておくことも可能です。誰が信託を担うのか、家族全員が納得できるよう十分に話し合い、「財産を託す相手」を決定してください。
専門家(司法書士・弁護士)への相談
家族信託の仕組みや契約書の作成には専門的な知識が必要です。ご家族だけで検討しようとしても「何をどう定めれば良いのか」「税金面で不利にならないか」など判断に迷うケースは多いでしょう。そのため、できるだけ早い段階で信託実務に詳しい司法書士や弁護士などの専門家に相談することを強くお勧めします。
専門家に依頼すれば、家族信託の設計(契約内容の検討)や契約書の作成サポート、必要書類の準備など一連の手続きをスムーズに進めてもらえます。特に信託契約書の内容は将来の家族内の取り決めとなる重要事項ですから、専門家の協力を得て細部まで検討し、漏れのない契約書に仕上げることが大切です。もし契約内容に不備があると、契約自体が無効になったり思わぬ贈与税課税を招くリスクもあります。
また、銀行で信託専用口座(信託口口座)を開設する際にも注意が必要です。銀行によっては、専門家を介さない個人からの申し出だと信託口口座の開設を断られるケースが少なくありません。実際、信託口口座を作るには事前に銀行の審査や本部承認が必要で、専門家によるサポートがないとスムーズに進まない場合があります。家族信託の初回無料相談を実施している司法書士事務所も増えていますので、ぜひ専門家と相談しながら準備を進めましょう。
家族信託契約の手続きと流れ
十分な準備が整ったら、いよいよ家族信託の契約を正式に結びます。ここでは、信託契約を締結し実行するまでの主な流れを説明します。
信託契約書の作成と公正証書による契約締結
信託契約は当事者(親と受託者)の合意だけでも法律上は成立します(私文書の契約でも有効)が、後々のトラブル防止のため公正証書で作成するのが一般的です。公正証書にすることで契約内容が明確になり、原本が公証役場に保管されるため紛失の心配もありません。また、公正証書化の過程で公証人が法律的なチェックを行ってくれるため、内容の不備による無効リスクを減らせます。
公正証書作成のためには、公証役場に事前予約を入れ、親(委託者)と受託者が揃って出向いて契約書に署名・押印します(代理人でも可)。この際、公証人から契約内容についての質問があり、最終確認を経て契約成立となります。万一契約内容が複雑な場合や専門的な判断が必要な場合でも、司法書士など専門家が立ち会いでサポートすることも可能です。契約書に盛り込む条項は家族ごとの事情(信託目的・財産内容・受託者/受益者・信託期間や終了条件・終了時の財産の帰属先など)に基づいて作成しますが、文言はできるだけ具体的にして曖昧な表現は避けましょう。解釈の余地が残ると後から紛争に発展し、せっかくの信託による財産管理が妨げられる恐れがあります。専門家のチェックを受けながら、家族が読んでも誤解のない明確な契約書を作成することが大切です。
信託口座の開設と不動産の信託登記
信託契約書が完成したら、実際に財産を受託者へ移し、信託を稼働させる手続きを行います。主に (1)金融財産の管理口座開設 と (2)不動産の名義変更(信託登記) の二つです。
まず、お金や有価証券を信託する場合には、受託者名義の「信託口口座」と呼ばれる専用口座を銀行で開設します。これは受託者個人の口座とは別に、信託財産を分別管理するための特別な口座です。銀行窓口で所定の申込手続きを行い、契約内容の確認審査を経て口座開設となります。前述のとおり、銀行によっては信託口口座の開設を渋るケースもあるため、専門家のサポートを受けると安心です。なお、既存の親名義の預金口座を信託財産に指定していた場合でも、その口座名義を受託者に変更することはできません(多くの銀行で預金債権の譲渡禁止特約があるため)。実務上は、先述したように信託契約後に親子で銀行へ行き、委託者の預金を一度現金で払戻しし、受託者名義の信託口座へ改めて預け入れるという手続きが必要になります。
次に、不動産を信託する場合は不動産の名義変更(信託登記)を行います。委託者(親)から受託者(子)への名義変更登記を申請し、登記事項証明書(登記簿)に「信託」が設定された旨の情報を記録してもらいます。登記申請にあたっては、委託者と受託者それぞれの印鑑証明書・実印、不動産の権利証(登記識別情報)、受託者の住民票、双方の本人確認書類などが必要です。登記の申請は司法書士に依頼するのが一般的ですが、ご自身で行うこともできます(法務局の窓口で事前に相談すれば手続き方法を教えてもらえます)。信託登記が完了すると不動産の名義が受託者に変更されると同時に、「受益者○○」「第二受益者○○」等の信託内容が登記記録に記載されます。これで不動産も含めた信託財産の受託者への移管が完了し、信託契約が実体的に履行されます。
信託開始後の管理と受託者の定期報告
信託契約の手続きが完了し財産の名義が移ったら、家族信託が正式にスタートします。ここからは受託者による財産の管理・運用が日常的に行われることになりますが、信託開始後にも守るべきルールと報告義務があります。
まず、受託者は信託財産を自己の財産と明確に区別して管理する義務(分別管理義務)を負います。預かった金銭は信託口口座で管理し、信託専用の通帳や帳簿を備えておきます。不動産の場合も、固定資産税の支払いなど信託財産に関わる収支はできるだけ信託専用口座を経由し、公私の財布を混同しないよう注意します。
次に、受託者には定期的な報告義務があります。信託法の規定により、受託者は少なくとも年に1回、信託財産の収支や残高をまとめた計算書類を作成し、受益者に報告しなければなりません。具体的には、信託財産の貸借対照表(バランスシート)や損益計算書、財産目録、収支報告書といった書類を作成し、受益者(多くの場合は親)に開示します。収益の発生しない自宅不動産の管理など簡易なケースでは簡単な収支報告で済むこともありますが、基本的には受託者が受益者に対して説明責任を果たすことが求められます。親である受益者や他の家族が安心できるよう、日頃から帳簿をつけ領収書類を保管するなど透明性ある管理を心がけましょう。もし受託者が信託財産を私的に流用するなど不正な管理を行えば、受益者は裁判所に訴えて受託者を解任したり損害賠償を請求することも可能です。家族信託は家族の信頼にもとづく仕組みですので、誠実に信託事務を処理することが何より大切です。
さらに、受託者が高齢の親族等の場合は、受託者自身が高齢であることによる問題にも備えておきましょう。受託者が亡くなったり病気で職務遂行できなくなった場合に備えて、契約時に後継受託者を定めておくことが推奨されます。信託契約の有効性を維持するため、受託者が不在とならないよう条項を整備してください。このように、信託の運用管理中に起こり得るトラブルの多くは事前の対策で防ぐことが可能です。信託設定後も定期的に家族で情報共有を行い、透明性の高い運用を心掛けましょう。
家族信託にかかる費用と必要書類
続いて、家族信託を利用する際に必要となる主な費用と書類について説明します。事前に概算を把握し、早めに準備しておくと安心です。
費用の目安
家族信託にかかる費用としては、契約書の作成費用、公証人手数料(公正証書化費用)、登記関連費用(登録免許税や司法書士報酬)などがあります。特に専門家への依頼費用は大きな割合を占め、一般的には信託財産額の0.5~1.5%程度(最低30~50万円程度)を目安に設定されるケースが多いです。例えば、不動産や預金を含む信託で専門家にフルサポートを依頼した場合、トータルの費用相場は50万~100万円前後とされています。一方、信託財産が現金のみ等シンプルなケースではより低額になることもあります。公証人手数料は契約内容によりますが数万円~十数万円、不動産の登録免許税は評価額によって変動します(固定資産評価額の0.4%が原則、例:評価額1000万円なら4万円)。その他、契約書に貼付する印紙代(200円)や登記事項証明書の発行手数料(数百円)など細かな費用もありますが、主な費用は契約書作成・公正証書化・登記関連と専門家報酬と考えておけば良いでしょう。
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主な必要書類
家族信託の契約や登記手続きで必要となる書類も事前に揃えておきましょう。以下は代表的な書類です。
- 財産目録(信託財産一覧):信託の対象とする資産を一覧にした書類です。預金口座の銀行名・口座番号・残高、不動産の所在地・地番・評価額、所有する有価証券の内容などをリストアップします。契約書の別紙として添付することも多いため、親御さんの持つ全財産を把握してまとめておきましょう。
- 本人確認書類:委託者(親)・受託者(子)それぞれの運転免許証やマイナンバーカード等、顔写真付きの公的身分証明書のコピーを用意します。公証役場で公正証書を作成する際や銀行口座開設時に提示が求められます。
- 印鑑証明書と実印:委託者・受託者それぞれについて、市区町村で発行後3か月以内の印鑑登録証明書を取得します。また、契約署名や登記申請のため各自の実印(印鑑証明書と同じ印鑑)を用意します。受益者が親以外の別人となる場合(例:親が委託者で子が受益者となるケース)には、その受益者についても印鑑証明書が必要になることがあります。
- 不動産関連書類(不動産を信託する場合):対象不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を法務局で取得します。併せて、その不動産の固定資産税評価証明書(市役所等で発行)も用意しましょう。これらは契約書作成時や公証人との事前打ち合わせ時に参考資料として必要になるほか、登録免許税額の算定や登記申請の添付資料として使用します。さらに不動産の権利証(登記識別情報通知)も紛失せず手元に用意しておきます。
- 戸籍謄本・住民票:親子関係など家族関係を証明するため、最新の戸籍謄本(または抄本)を取得します。公正証書作成時に求められる代表的書類の一つです。また、不動産の信託登記では受託者の住所証明のため受託者の住民票(発行から3か月以内)が必要になるので準備します。これら役所で取得する書類は交付申請から発行まで時間がかかる場合もあります。特に戸籍謄本や評価証明書は早めに請求し、家族信託の契約手続きを滞りなく進められるよう事前に準備しておきましょう。
まとめ:スムーズに家族信託を始めるためのポイント
ここまで、家族信託の始め方と手続きの流れを準備段階から契約後まで順を追って解説しました。最後に、スムーズに家族信託をスタートさせるための要点をまとめます。
- 早めの準備と目的の共有:親御さんの判断能力がしっかりしているうちに、家族信託の検討を始めましょう。家族全員で信託の目的や必要性を話し合い、合意形成することが第一歩です。目的を明確にして共有しておくことで、手続きの途中で迷いが生じにくくなります。
- 信頼できる受託者の選定:家族信託の中核は受託者です。人選にあたっては信頼性はもちろん、財産管理の能力や長期的な責任を担える人物かを考慮しましょう。必要に応じて後継受託者の指定も検討してください。
- 専門家の活用:家族信託は新しい制度であり、法律・税務の知識も要求されます。無理に自己流で進めるとトラブルになるケースもあります。司法書士や弁護士など専門家への相談・依頼を適切に活用することが、結果的に安心で近道です。初回無料相談を行う専門家も多いため、遠慮なく活用しましょう。
- 契約内容の明確化:信託契約書は将来の道しるべです。条項は具体的かつ平易に記載し、家族が読んでも誤解のない内容にしましょう。後日の争いを避けるためにも専門家のチェックを受け、漏れのない契約書を作成することが大切です。
- 計画的な手続き遂行:公正証書の作成予約、銀行口座の事前審査、登記書類の準備など、各手続きには時間がかかります。スケジュールに余裕をもって進め、必要書類は早めに収集しましょう。事前の準備が万全なら、契約締結から信託開始までスムーズに運ぶはずです。
- 信託開始後の責任ある管理:信託が始まった後も、定期的な報告と帳簿管理を怠らず透明性を保って運用することが信託成功の鍵です。家族の信頼に応える誠実な姿勢で、受託者は信託財産を適切に管理していきましょう。
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※本記事は最新の法令等に基づき司法書士の監修のもと作成していますが、ご家庭の事情によって最適な手続きは異なります。具体的な家族信託の実行にあたっては、必ず司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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